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論泉 RONSEN

論泉勉強会・第一回テーマ「皇位継承」

座長 浦島太郎


問題提起(浦島太郎)

 論泉勉強会の第一回テーマは皇位継承についてです。

 皇族に久しく男児が誕生しなかったため「皇室典範で認められていない男系女帝や、女帝の子も登極できるようにする」「男子優先ではなく長子優先」という皇室典範改変案が浮上し、与党部会に諮られる一歩手前まできました。この案について反対意見、戸惑い等が多くの人々から寄せらました。

 ところが先日、秋篠宮妃殿下が懐妊され、改革派の口も重くなり改革案提出が見送られる可能性も高くなりました。しかし、問題の本質は余り変わっていません。現在、自然の方法で懐妊できる可能性がある皇族カップルは東宮と秋篠宮の二つのご夫妻だけであり、年齢的にも多数の男児は望めないでしょう。

 妃殿下が男児出産されれば、その子が新しい世代の天皇になり、その時点では男系男子の伝統は守られます。ですが、彼を支えるべき男系の宮家、つまり三笠、高円、(桂宮は結婚されていない)はこのままでは将来消滅します。秋篠宮家も天皇となる男児一人だけだと無くなります。東宮ご夫妻、秋篠宮ご夫妻から彼以外の男児が産まれなければ新たな宮家はできません。すると男系男子は彼の息子以外有り得なくなります。

 現行の皇室典範をそのままにし、旧宮家復帰、側室制度の復活、高度な生殖医療技術の利用を排除すれば、男系男帝の天皇と彼を支えるべき男系の男子が継ぐ宮家を末永く戴き続けるのは大変困難である、と言わざるを得ません。

 皇室典範改革案に関連して、これまで出された意見を大まかに分ければ、以下のようになります。

1)天皇、皇族、皇室の存続

 1-A)男系男子のみが践祚(現行維持)

 1-B)男系男子、男系女子のみが践祚

 1-C)男系、女系ともに践祚可能

2)天皇、皇族、皇室の廃止

 男系とは父系ともいい、天皇の息子の息子の…となる人々を指します。これまでの天皇は全て男系で、父の父の…と辿れば必ずどこかで男帝に行き当たります。逆に言えば、天皇の息子の息子の…という人以外は男帝にならなかったわけです。女帝は、天皇の息子の息子の…息子の娘だけでした。このことは少なくとも系図上は神武天皇から一貫しています。

 女系天皇(母系天皇)とは母の母の…と母方を辿れば祖先が女帝になる場合です。女帝の子孫が天皇になった場合もありますが(例えば天智天皇や文武天皇)、これらの場合は全て女帝の夫は天皇であり、子孫は男系(父系)でもあるわけです。女系のみの天皇は系図上今まで存在しないことになっています。

 以下、各論の問題点について簡単にまとめます。

 1-Aを続けるために、旧宮家の男系男子が皇族となる案が提示されています。また大正帝の時に実質的に廃され、昭和帝が忌避した側室復活案も有り得ます。一方、将来的に皇族が増えた場合、かつてのように臣籍降下したり、仏門に入り結婚せず子をなさない、等の方策を考える必要も出てくるでしょう。

 また「問題となるのは何十年も先だから時間はある。皇室典範はすぐに変えなくても良い」と述べる人もいます。ただし、天皇になりうる人には幼いときから帝王教育が必要でしょう。そうなると今から次の東宮(皇太子)のことを射程にいれなけれなりません。次の東宮候補、次の次の東宮候補は誰であるのかは喫緊の問題とも考えられます。

 1-Bや1-Cの場合「直系・傍系」「男子・女子」「第一子の女子・それより幼い男子」間の優先順位が問題になります。また女帝登極と結婚を認めた場合、男子でさえ配偶者選びが難しい現在、女帝(と女帝候補)の夫選びは更に難しいと予想されます。

 1-Bの場合、女帝に一生独身でいることを義務付けるべきかどうかも考えねばなりません。これまでの女帝は男の天皇の寡婦か、一生独身でありました。結婚して子をなすことを認めた場合、その子供は民間人なのか皇族の一員であるのか、成人すれば民間人になるのか、などの細かい問題も考えられます。

 1-Cの場合、男系で一貫してきた伝統が崩れる可能性が高く、大きな抵抗感を覚える人も多くいます。また女帝ではありませんが、内親王や女王が宮家を継承したり、新たに宮家を造った場合、皇族の数が増えすぎる可能性もあります。このとき、1-Aで述べたように、跡継ぎにならない人を臣籍降下したり仏門に入れ一生子をなさない、などの措置が必要になるでしょう。

 2の場合はそもそも憲法を改変しなければなりません。現在、天皇を積極的に無くそうとする人は少数派ですから、余り現実的ではありません。

 他にも華族制度をどうするかなど幾つか問題がありますが、おいておきます。少なくとも以上の問題点を踏まえた上で、女帝だけでなく女系天皇を認める皇室典範改変案について皆様はどのように思われるでしょうか。

2006年2月11日

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皇位継承をテーマにした本(浦島太郎)

編集長の高坂氏が紹介された書籍以外で皇位継承に関連する一般向け書籍を紹介致します。

<現代の皇位継承に焦点を絞った書籍>

●田原総一朗責任編集『徹底討論!皇室は必要か』(PHP研究所)2004(平成16)年9月

2004年放映のテレビ朝日系列「朝まで生テレビ!」の「徹底討論!皇室とニッポン」を収録した書籍。小林よしのりの「民主主義を是とするなら天皇は要らないということになる」、八木秀次氏の「男系遺伝するY染色体だけが初代天皇以来確実に伝わる染色体だから天皇は男系でないとダメ」などの発言が収録されている。森鴎外の『かのやうに』が提起した問題にも触れられている。

●別冊宝島編集部『別冊宝島・皇位継承と宮内庁』(宝島社)2004(平成16)年11月

様々な記事からなるムック。皇位継承のシミュレーションは男系女系、男帝女帝論議がピンと来ない人には分かり易い。八木秀次、鈴木邦男、松本健一各氏へのインタビュー記事も掲載され、彼らの皇室、皇位継承に関する考え方の概要が理解できるようになっている。皇位継承等について事無かれ主義の宮内庁批判記事も。その他、現代を生きる天皇の公務や旧皇族の詳細、皇室報道の問題点などもある程度把握できる。

●中野正志『女性天皇論 象徴天皇制とニッポンの未来』(朝日選書)2004(平成16)年9月

全般に国民主権と象徴天皇制の在り方を論じ、それを是とする論調の本。戦後の制度の矛盾点や女帝が排除された理由なども分析されている。東宮妃の心理的ストレスの問題から過去の女帝についての割と詳しい解説、万世一系の作られ方、などもある。先頃から話題になっている皇室典範改正案とほぼ同じ提案がなされている。

<皇室危機の歴史を振り返る>

皇位継承問題を考えるのも重要でしょうが、私(浦島)は皇室の歴史を知ることも必要だと考えています。古事記や日本書紀は神話も出ていて意外と面白く、中高生でも充分読めます。大抵の図書館に現代語訳や註がほどこされた書籍として所蔵されています。

また、過去、皇室が陥った危機、それを脱した経緯や時代を解説した一般向け書籍もあります。

●今谷明『室町の王権 足利義満の王権簒奪計画』(中公新書)1990(平成2)年7月

副題通り、足利義満が天皇の持つ叙任権、祭祀権を巧みな政治力で奪いつつ、対外的に日本国王、内政的には治天となるまでの様子を描く。中世日本における王権とその制度の分岐点を考察する一般向けの著作。義満は皇位簒奪までは考えていなかった、というのが多くの研究者の考えではあるが、今谷の分析とどちらが正しいのか。血筋による皇位継承が危うくなった経緯を知るのに役立つ。

●今谷明『武家と天皇 王権をめぐる相克』(岩波新書)1993(平成5)年6月

『室町の王権』に引き続き、皇位を危うくする武家、天皇の権威を削ぐ武家と、それに立ち向かう天皇を描く。天皇家が続いた理由を考える一冊。関白となった秀吉、紫衣事件と後水尾天皇突然の退位に引き続く明正天皇即位、幕末の天皇家、などが詳しく説明されている。

●藤田覚『幕末の天皇』(講談社選書メチェ)1994(平成6)年9月

18世紀末から19世紀半ばは、日本国内で様々な天災と飢饉が起きた。近代文明によって版図を広げつつある列強の圧力も目に見えてきた。幕府はそんな時代に様々な改革を打ち出すが、権威は低下する。国学の発達と復古思想が広がりつつあったこの時代、傍流の身分低き母から生まれながら学問に励み朝廷復権を志した光格天皇、その遺志を継いだ孝明天皇がいた。明治維新の基礎を朝廷側から築いた天皇の姿を描く。

<皇族を登場人物にしたマンガ(フィクション)>

皇室の歴史を知るためにはフィクションも手がかりになります。特にマンガは親しみ易く、文章を読むのが疲れる時でも余り苦になりません。歴史を題材にした小説は登場人物が多く、抵抗感を覚える人も多いのですが、画像を手がかりにできるマンガはさほどでもありません。

また、こうしたフィクションはは天皇家の歴史があったからこそ生まれた文化でもあります。

○長岡良子『天離る月星』『眉月の誓』など(秋田書店の漫画文庫)2004

大化改新頃から大宝律令制定までの半世紀を舞台にしたマンガ。「むしころす654年大化改新」を記憶の片隅に留めているけれども、この頃の歴史は殆ど知らない、という人向け。中臣(藤原)鎌足の次男・不比等に焦点を当てて描いている。これも正史に記載されている史実とともに古代史上の謎を巧みに織り込んでいる。中臣鎌足が天智天皇の女の人を二人も奥さんにしていた、不比等はもしかしたら天智天皇の息子かもしれない、不比等の兄は孝徳天皇の息子かもしれない、天智天皇と同母妹の不可解な関係、天武天皇は天智天皇の同母弟ではないかもしれない、などの説はご存知でしたか?長岡にはこの時代を描いた不比等以外の主人公のマンガも多数あり、こうした説を巧く織り込んでいます。

○梅原猛原作・山岸凉子画『ヤマトタケル』(角川書店)1987年12月

タイトル通り、古代史の英雄・ヤマトタケルが主人公。双子の兄を溺愛し、弟のタケルを無視する父の為に日本各地の「まつろわぬ民」を平定し、旅先で生涯を閉じた悲劇的な人生を描く。タケルの妻となる弟橘媛、尾張氏の媛、伊勢神宮を建立したとされる叔母・倭姫なども登場。

○山岸凉子『日出処の天子』白泉社文庫など(マンガ)

厩戸王子(聖徳太子)の少年〜青年時代を描くフィクション。フィクションとはいえ、様々な史実や、歴史上の謎を巧く織り込んでいる。厩戸王子を天才的頭脳と超能力を持ち、女よりも美しいと描く一方で、母(穴穂部王女)と折り合いが悪く、残忍で酷薄で孤独な性格を持つとしたため、雑誌連載当時四天王寺から批判を浴びたという。古代の天皇家の概略を全く知らない人向け。

2006年2月11日

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皇位継承をテーマにした本・記事(編集部・高坂)

■皇位継承をテーマにした本(発行年月日順)

●皇室研究会編『共同研究 現行皇室法の批判的研究』神社新報社、昭和62年12月15日

大石義雄・葦津珍彦を中心に、昭和五十六年秋から五十九年末まで三年余り研究を重ね、簡易印刷版を作成して諸家の批判を仰いだ上で、加筆し、まとめた皇室法の研究書。歴史・伝統の立場から皇室法を研究している。

●高橋紘・所功『皇位継承』文春新書、平成10年10月20日

現代における皇位継承の問題点を世に知らしめた本。皇位継承の歴史や問題点が概説されている。

●所功『近現代の「女性天皇」論』展転社、平成13年11月3日

近現代の女帝をめぐる論議を跡付けた本。伝統的には男系男子による皇位継承が正統であると認めつつ、女性天皇さらには女系天皇の可能性を視野に入れた皇室典範の改正を提言している。

●所功『皇室典範と女帝問題の再検討』國民會舘叢書、平成14年3月15日

平成十三年十一月十日に國民會舘で開催された講演のブックレット。平易な言葉で聴衆に語りかけている講演だけに、著者の基本発想がよく現れている一冊。女帝論を男女共同参画社会とも関連付けて論じている。

●園部逸夫『皇室法概論〜皇室制度の法理と運用』第一法規出版、平成14年4月10日

日本国憲法・皇室典範を中心に皇室に関する法制(皇室法)の解釈運用に関する基本原理を平易に概説したもの。女系天皇へと開く道を法学の立場から裏付けようとしている。著者は元最高裁判所判事で皇室典範に関する有識者会議のメンバー。

●笠原英彦『女帝誕生〜危機に立つ皇位継承』新潮社、平成16年6月25日

女帝に焦点を当てて皇室史・皇室法制史を跡づけた本。著者は日本政治史・日本行政史を専門とする法学博士。女帝の果たした歴史的役割から女帝「中継ぎ」論を批判している。万世一系の原理に変化が生じる女系天皇に踏み出すことは荊の道の始まりかもしれないとしつつ、女系天皇に賛成の立場。

●八木秀次『「女性天皇容認論」を排す〜論集・現代日本についての省察』清流出版、平成16年12月7日

表題論文とコラム「女帝容認の前に考えるべきこと」が収められている。性染色体の遺伝学的見地から神武朝の男系継承論を根拠付けている。女系天皇に反対の立場。

●奥平康弘『「萬世一系」の研究〜「皇室典範的なるもの」への視座』岩波書店、平成17年3月16日

敗戦後、占領軍の作った新憲法下において伝統的な天皇制度を残そうと腐心した当時の「日本の社会支配層」の動きを左翼の立場から跡付けた本。現在の皇室典範改正論議に関しては、世襲制の天皇制度そのものが反民主主義的として、男女同権思想による女系天皇容認論を批判している。

●松藤竹二郎編著『三島由紀夫と楯の会 日本改正案』毎日ワンズ、平成17年4月29日

昭和四十四年暮れに楯の会有志で組織し、三島由紀夫の自決直前まで勉強を重ねた憲法研究会の討議(三島も参加)の内容と三島が遺した憲法論を収めたもの。討議テーマ「天皇に関する規定」では日本における天皇の在り方を中心に討論されていて、女帝・女系天皇問題にも説き及んでいる。女系天皇容認の立場と見られる。

●別冊歴史読本12『皇位継承の危機』新人物往来社、平成17年5月25日

皇位継承問題の基本知識とこのテーマに関連する歴史エッセイを集めたもの。若いライター中心だが、皇室に対する民衆の想像力(物語への志向)を感じさせるエッセイが多い。

●鈴木邦男・佐藤由樹『天皇家の掟〜『皇室典範』を読む』祥伝社、平成17年8月10日

編集者の佐藤由樹がメインとなる部分を書き、新右翼の鈴木邦男がコントを付けるというスタイルの本。佐藤は憲法に規定された象徴天皇制そのものに疑義を呈し、鈴木は皇室の自由を過度に縛るものとして皇室典範の廃止を訴えている。

●八幡和郎『お世継ぎ〜世界の王室・日本の皇室』平凡社、平成17年11月15日

皇室の歴史を踏まえ、世界の王室・帝室と比較しながら、皇室と皇位継承のあるべき姿、政府のなすべきこと、今後の展望などを説いている。著者は歴史通の元通産官僚。女性天皇・女系天皇容認には慎重な立場。

●竹田恒泰『語られなかった皇族たちの真実〜若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」』小学館、平成17年12月12日

旧宮家出身の青年が書いた皇室史・皇族史。皇位継承についても具体的で率直な意見が述べられている。女系天皇に反対の立場。

●所功『皇位継承のあり方〜“女性・母系天皇”は可能か』PHP新書、平成18年1月30日

平成十七年に出された「皇室典範に関する有識者会議の報告書」を受けて、その内容に基本的に賛成しながら部分的に修正を加えるというスタンスで書かれている。女系天皇に賛成の立場(著者は女系ではなく母系という用語を提唱している)。

■雑誌掲載のもの(発行年月日順)

●寛仁親王「天皇さま その血の重み〜なぜ私は女系天皇に反対なのか」(「文藝春秋」二月特別号)文藝春秋、平成18年2月1日

皇族で唯一皇位継承問題について積極的な発言されている寛仁親王殿下のインタビュー。聞き手は櫻井よしこ。殿下は女系天皇に反対の立場で、「この女系天皇容認という方向は、日本という国の終わりの始まりではないかと、私は深く心配するのです」とおっしゃっている。

※ここに掲載している本や記事は、勉強会に参加するに当たって編集部・高坂が目を通したものを参考までに挙げているもので、皇位継承をテーマにした本のすべてではありません。このテーマの勉強会の期間中、読了したものは随時追加して行きます。皇位継承をテーマにした本・記事については、上掲の所功『皇位継承のあり方〜“女性・母系天皇”は可能か』に詳細な書誌が付されていますので、参照して下さい。

■参考資料URL

皇室典範に関する有識者会議

平成18年2月11日

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