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論泉 RONSEN

NHK受信契約の検証

KS


NHK受信契約の結び方について

はじめに

 平成18年11月29日、日本放送協会(NHK)は受信料不払い世帯に支払いを求める督促を東京簡易裁判所へ申し立てました。申し立てを受けた東京簡裁は、受信料不払い世帯に支払い督促状を送付します。督促状を受け取った人が2週間以内に異議を申し立てれば裁判で争うことになりますが、異議申し立ても支払いもせずに放置すれば、NHKは仮執行宣言を簡裁に求めます。これによってNHKは、不払い者に対する財産や給与の差し押さえが可能になります。NHKは未契約者に対しても対策を進めているそうで、今後未契約者に対して契約締結を求める民事訴訟に向けた動きを本格化させるということです。

 この問題については様々な論評を見かけますが、本稿では私がNHKの受信契約について気づいたことを簡単に述べたいと思います。第1回はNHK受信契約の結び方についてです。

未契約の場合

 まずNHKとまだ契約していない場合について述べます。

 テレビを設置した者はNHKと受信契約をしなければなりません。これは放送法によって決められています。現在契約していない人も、NHKの地域スタッフ(営業開発スタッフ)から勧誘されたことがあると思いますし、その際に「これは法律で決められています」と言われたこともあると思いますが、実際にその法律(放送法)を読んだことはあまりないと思いますので、その条文を見てみましょう。放送法の第三十二条です。

(受信契約及び受信料)

第三十二条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

 協会は、あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。

 協会は、第一項の契約の条項については、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。

 第1項に「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とあるのが、テレビを所有している者がNHKと受信契約をしなければならない法律的根拠です。放送法には、これ以外にNHKとテレビ所有者との関係を規定するものはありません。

 この条文から考えられることは、契約そのものは放送法上しなければならないということです。しかし、放送法には契約内容については何ら規定されていません。NHK側は契約の条項(日本放送協会受信規約)を決める際に総務大臣の認可が必要とありますが、受信規約そのものは法律ではなく、法律にはテレビ所有者側がどのような契約をしなければならないかは規定されていません。

 放送法にテレビ所有者の契約内容が規定されていないことから、テレビ所有者はNHKと内容がどうであれ契約しさえすれば問題はないと考えられます。契約である以上、NHKとテレビ所有者は対等の関係にあります。契約自由の原則から、契約する際にNHKが提示する内容をそのまま承諾する必要はなく、テレビ所有者側から月額いくらでNHKと契約したいと申し出ることができます。この契約交渉では、自分がNHKの放送の価値として見合うと思った額を提示すればよく、極端な話、月額1円を提示することも可能です。

 NHK側が「これは法律で決められています」と言ってきた場合でも、「わかりました、契約はしましょう。ただし、こちら側の条件はこれです」と答えることができます。NHK側が「それは困る。こちらの受信規約の条件で契約してもらわなければ困る」と言ってきた場合は、「放送法には受信規約の条件で契約しなければならないとは明示されていません。私たちテレビ所有者側の契約内容まで規定したものに放送法が改正されない限りは、私はこの条件で契約したいです」と答えることができます。

 受信契約の交渉は対等の関係の中でのことですから、一方だけが譲歩しなければならない理由はありません。NHKがテレビ所有者の条件を承諾するか否かはNHKの勝手ですので、契約がなかなか成立しないとしても、テレビ所有者に一方的に問題があるということにはなりません。十分に交渉し、内容に納得した上で契約を結ぶことができます。

 受信料は契約に従って発生します。契約しない限りは、受信料を支払う義務はありません。NHKは未契約者には裁判所に支払い督促を申し出ることもできません。NHKは未契約者に対して契約締結を求める民事訴訟を起こすそうですが、上述したように、放送法の条文から見る限り、テレビ所有者側から契約内容に関する条件を提示することは可能であると思われます。契約しない限り受信料を支払う義務は発生しませんが、テレビ所有者側が契約の意思はあることを明らかにしておきたければ、交渉している期間、提示した受信料の額を供託しておけばいいでしょう。

すでに契約している場合

 テレビ所有者が現在NHKに支払っている受信料が放送の内容に見合っていると考えているのであれば、何の問題もありません。しかし、そうではない場合があります。そこで次に、NHK側が提示している額の受信料を支払いたくないと思っている場合、また実際に受信料を支払っていない場合について述べます。

 NHKの受信規約は、法律ではありませんから、テレビ所有者を拘束しません。しかし、契約してしまえば、契約者双方を拘束します。従って、すでに契約していて、支払っていない場合は、債務不履行になります。すでに契約している以上、それまでの未払い分(時効が成立していない分)については、裁判をすれば最終的に敗訴する可能性が濃厚です。

 現在までは支払っているが今後は支払いたくないと思っている場合、あるいは未払い分は支払うが今後は支払いたくないと思っている場合でも、そのまま契約を続けていれば、今後も受信料を支払い続けなければなりません。この場合、テレビ所有者がNHKに条件を提示し、契約内容の見直しを求めるという方法が一つ考えられます。しかし、NHKがそれを承諾すれば問題はないのですが、NHKが承諾しなかった場合は、契約内容の見直しを申し出ただけではそれまでの契約が無効にはならないので、これまで通りの受信料を支払い続けなければならないでしょう。

 そこで考えられるものとして、NHKとの受信契約を一度解約するという方法があります。所有しているテレビを譲渡・廃棄するなどして、NHKとの受信契約の解約を申し出ます。NHK側は解約を断ることはできません。そして、改めてテレビ所有者になり、「未契約の場合」に述べたように、対等の関係としてNHKと契約交渉をすることができます。

平成18年12月5日

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「抱き合わせ商法」の疑いについて

NHK受信契約と「抱き合わせ商法」

 テレビを購入すればNHKと契約しなければならない、言い換えればNHKと契約しなければテレビを購入できないという決まりは、抱き合わせ商法に当たるのではないでしょうか。抱き合わせ商法とは、消費者が欲する商品・サービスに、それとは別の商品やサービスをセットにして(抱き合わせて)販売する商法です。ブームになって入手困難な玩具やゲームソフトなどで問題となることが多く、人気のある商品に売れ残りの商品を抱き合わせて販売するなど、欲しい商品を買う時に不要な商品まで売りつけて不当な利益を上げるものです。抱き合わせ商法は独占禁止法に抵触し、悪質なものは処罰の対象となります。

 以下、視聴率とテレビ購入費との比較から、NHK受信契約は抱き合わせ商法に当たるのではないかという疑問について述べます。

視聴率から考える

 まずテレビの視聴率から考えます。ビデオリサーチ社などが出しているデータがどこまで正確に実際の視聴率を反映しているかという問題はありますが、一応の目安とすることは可能と思われます。関東圏で見た場合、ここ20年ほどの視聴率全体におけるNHKの占める割合は20パーセント以下です(古くは25パーセント程度あったようです)。

 テレビを購入する人の動機を考えると、NHKを見たいから買うという人もいるでしょうが、視聴率からは民放の番組を見るためにテレビを買う人が多いと言うことができるでしょう。民放の番組を見るためにテレビを買った多くの人にとっては、民放の番組という商品・サービスにNHKの受信契約が抱き合わされている状態になっていると言えます。

テレビ購入費から考える

 次にテレビ購入費から考えます。民放を見るためにテレビを買っているということはよく言われますが、テレビ購入費とNHK受信料を比較することはあまりなされていないと思います。

 現在、新品の20型のテレビが2万円程度で購入することができます。仮にテレビ購入費を2万5千円として、耐用年数を5年とします(実際にはもっと保ちます)。NHKの受信契約は地上波のカラー契約のみとするとして、月額1300円強で、年額1万5千円程度ですから、テレビの耐用年数の5年の間に、NHKの受信料を7万5千円支払わなければなりません。つまり、2万5千円のテレビに7万5千円のNHKの受信料が抱き合わされている状態になっていると言えます。これは言うならばテレビを10万円で購入しているのと同じであり、そのうちの75パーセントをNHKが得ている計算になります。

 以上の比較から、NHKを見たいし受信料も問題はないと考えている人は別として、NHKの受信契約が多くのテレビ利用者に多額の負担を強いていることは明らかです。NHK側は受信料はコンテンツに対する対価であって、テレビ購入費と一緒にするのは間違っていると主張するかもしれませんが、NHKは「テレビをお備えであればNHKを見る見ないにかかわらず、受信料をお支払いいただく」と言っており、NHKのコンテンツを見ない人、つまり民放を見るためだけにテレビを購入する人にも受信料を支払わせることに問題はないという考えなので、そうだとすればこれは本当は他の商品が欲しい人に不要な商品を抱き合わせて売りつけるということであり、NHKの受信契約は独占禁止法で禁止されている抱き合わせ商法ではないかという疑問を持たれても仕方がないと言えるでしょう(※注)。

 独占禁止法に抵触するという点では、NHKとテレビ利用者との関係だけではなく、NHKと民放など他の事業者との関係も問題になってきます。見たくないNHKと受信契約を結ばなくてはならないのであればテレビを購入しないという消費者が存在すると考えられますが、これはNHKが民放の営業の障害になっていることとも言えます。NHKが他の事業者の事業活動を阻害・制限していると考えるならば、こちらも独占禁止法違反ではないかという疑いが出てきます。

※注

本稿では「抱き合わせ商法」という用語を使っていますが、テレビを販売しているのは家電メーカー・家電販売店ですから、正確には、NHK受信契約は、家電メーカー・家電販売店、それに民放と民放にお金を出しているスポンサーに寄生する「寄生商法」、あるいは「抱き合わさせ商法」の疑いがあると言うべきかもしれません。

平成18年12月8日

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