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論泉 RONSEN

メイド喫茶とその時代

しみじい@メイド喫茶愛好家


第一回「そもそもメイド喫茶とは何か?」

最初に、簡単に自己紹介のようなエピソードを。

だいたい1年半くらい前、某コスプレ系の(一般人をターゲットにしたそれではなく)飲み屋に行った。たぶん、それがおたく向け飲食店に足を踏み入れた最初である。正直、驚いた。そのコスプレが何のコスプレかとか、客同士の会話の内容とか、ウェイトレス同士の会話の機微とか、メニューの微妙なギャグとか、もうほとんど理解できなかった。ほとんどの客は盛り上がっていたため、敗北感すら感じた。

今なら、彼らの会話も嫌というほど分かると思う。それらのベースはほとんどがアニメだったのだ。

どちらかというとおたくジャンルに自分は属すると思っていたが、アニメは、あまり観ていなかったためのカルチャーショックであった。アニメを制する者はおたくを制するだの、すべての道はアニメに通ずだの、アニメに始まりフィギュアに終わるだの、てきとーな慣用句が浮かんでは消えるくらいのインパクトがあった。

それから4ヶ月後である。これまたコスプレ系の飲み屋に行った。参った。ウェイトレスというか、キャストというか、それはもうものすごいおたく揃いだった。とても楽しかったが、軽い敗北感すら感じた。今でもこの店は最強のおたく店員が揃っていると思う。

もともと、アイドルだのマンガだの一通りのやや古いジャンルの(少なくともメインストリートではない)おたくジャンルにはそれなりに通じてはいたのだが、アニメは映画になったやつくらいしか観ていなかった。

それから一生懸命勉強した。彼らの側に行きたいと思った。

約1年後。敗北感を感じまくったあの彼女達の店に再び行った。そこでこんなことを言われた。「フツーのサラリーマンの格好して、バリをたじゃん」嬉しかった。今年一番嬉しかった言葉である。まだ10ヶ月残っているけど。

さて、ここから本編が始まります。

秋葉原は、日本の流行の一歩先を行っているとよく言われる。その一歩先という時間が10年先という人もあれば、1年先という人もあるわけだが。どのくらいの時間先を行っているかはともかく、秋葉原は確かに日本人のライフスタイルの一部を先取りして来た実績がある。

古くは、電器街として、次に電脳街として、そして萌えの街として(というか、今ではそれらが全て混在しているわけですが)。

というわけで、今回から数回に渡り昨今「アキバ」で台頭してきたメイド喫茶をテーマにその時代背景を考察する。つまり、やや未来について考えるのが本当のテーマである。実際、秋葉原で流行したメイド文化は、今や地方都市にまで波及し始めている。

さて、第一回目はメイド喫茶というもの、その定義について考えてみたい。

喫茶の第一号店はどこか? というのには諸説ある。それも当然で、イベントなどで一時的に作られたものをそうだと言うか、あるいはコスプレ的な側面が強い特定のゲームのキャラクターを主題にした店をそうだと言うかなど、メイド喫茶の範疇をどこに置くかで分かれてくるからである。

何れにせよ、メイド喫茶のコンセプトは、フツーの風景ではありえないメイドが給仕することをWRが「演じる」喫茶店という部分にある。この演出された部分がなければ、メイド喫茶とは呼ばれない。

それも、おたく(以降ヲタと略します)文化で愛好されるようなキャラクターを演じるわけで、何もリアルなメイドを演じるわけではない。

その意味でエンターテイメントレストランの類とそう大きくは離れていないとも言える。昨今、大手マスコミで扱われているのはまさにエンターテイメントレストランのような、過度に演出された店が大半である。いや、それらの店もいつもそんなイタイことをしているわけでもなかったりするのだが、フツーな部分を扱ってもマスコミ映えしないので仕方がないと言えるだろう。

よくある疑問で、アンミラだの馬車道だの「制服が可愛い喫茶店、レストラン」はこのジャンルには入らないのか? というものがある。

実は、私もこの世界にどっぷり漬かるまでは、そんな疑問をもっていた。つまり、それらの「制服が可愛い喫茶店、レストラン」が先鋭化したものであると思っていた。

しかし、それらがヲタをひきつけない理由を考えれば(中にはそれらが大好きなヲタもいますが)、すぐに別物と分かる。

単に、それらフツーはありえない服装という意味では同類なのかもしれないが「演じる」行為が遥かに少ない。たとえ、外見はメイド服にしか見えないような格好をしていても、彼女達がメイドをキャラクターとして演じることはないだろう。それは、ただの店の制服に過ぎない。

実際、アキバのメイドさんとアンミラの両方で働いていたことがある元メイドさんを私は知っているが、アキバの方が遥かに疲れたそうである。理由は常にメイドを演じていなければなかなかったからだそうである。どちらも、制服がかわいくて働き始めたというのが動機だそうだが。

「演じる」というのは、どういうことか。

例えば、メイド喫茶のメイドさんは、名前もたいていは店だけの名前だったり、コスプレの時の名前だったりする。

しかし、アンミラなどの「制服の可愛い喫茶店、レストラン」には、例えば「いちご、りんご、かりん(ちなみに、全てアキバに実在します)」などフルーツ系の名前のWRを見た事はない。店もそんな奇矯な行動は許さないだろう(もっとも、メイド喫茶の中にも、そもそも名札がない店もあるが)。

これら「演じる」喫茶店という側面が映像的にも面白く、マスコミではクローズアップされているのだと思う。もっとも、この「演じる」部分の解釈によって、マスコミでの取り上げられ方も様々である。

次回から、これら「演じる」ことについて具体的にどういうものがあるのか見ていきたいと思う。

2006年3月3日

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